AIが内視鏡検査を変える!?

印刷用ページ[2018/06/15] 胃腸科

皆さんこんにちは。横浜市の胃腸科、ららぽーと横浜クリニックです。

日進月歩の科学技術の力によって、昨今ではSFではなく現実に「人工知能」が活躍する話を多く耳にするようになりました。ところでこの人工知能、医療の分野にも活躍の場を広げつつあります。ご存じでしたか?

今回は当院が神奈川県で初導入した「AIによる内視鏡検査」を題材に、皆さんにホットな話題を提供していきたいと思います。

 

内視鏡には種類がいっぱい!

現在、医療現場における内視鏡は様々な用途に合わせて使われており、その種類も大変豊富です。
「内視鏡」に分類される機器を少し挙げただけでも「上部消化管内視鏡」や「大腸内視鏡」、「カプセル内視鏡」、「腹腔鏡」に「膀胱鏡」など、形状も様々ありキリがありません。

今回はこの中でも我々の専門とする胃を検査する際に使われる「上部消化管内視鏡」と「大腸内視鏡」……つまり胃と大腸の内視鏡検査に絞って説明していきましょう。胃カメラ&大腸カメラに興味のある方には必見の情報ですよ!

 

内視鏡検査の現状

現在検査に使用される内視鏡の元となる機械は日本で生まれました。そうした理由もあり、内視鏡関連機器やそれを扱う医師の検査技術に関しては世界でもダントツ、最先端を走っています。
全ては少ない負担で検査を安全に、そして診断を正確に行うために培われた人々の努力の結晶であると言えます。

しかしながら、内視鏡機器の機能が上がっている現在においても、小さなものや肉眼では判断しにくい病変を見逃してしまうといった問題は依然としてなくなっていません。
最終的には人間が行う検査ですから、人類及び生物としての限界は否定できませんが、病変の見落としには主に以下のようなものがあります。

 

医師の技量不足による見逃し

専門医であっても駆け出しの者と10年以上内視鏡を経験している者との差が出てしまい、病変の見逃しが起きてしまう。

 

肉眼認識が困難な病変や部位であること

ポリープや癌の形状なども様々あり、特に平坦なものや陥凹型(かんおうがた)と呼ばれるものは肉眼での発見は困難とされている。

また大腸検査では、盲腸へ達してから引き抜いていく過程での観察になるため、ひだ状になっている大腸の裏側部分にはどうしても観察出来ない場所が出てきてしまう。

 

検査数の多さから来る医師の疲労や集中力欠如

専門医1人で日に何十件もの検査を行っていたり、他にも自治体の検診画像を検証する(1時間で3000枚チェックする医師も!)などもあるため、その負担の多さから見逃しが起きてしまう。

 

専門医の少ない地域であること

過疎地や僻地など、地域によっては内視鏡専門医が不足しており、十分な検査が行えず見逃してしまう。

 

例えば大腸癌は「前癌病変」と呼ばれる大腸ポリープを切除治療することで予防出来ます。そのため大腸内視鏡検査では早い段階でポリープを発見出来るかどうかが鍵になります。見落とすわけにはいかないのです。

大腸内視鏡検査

 

医療現場にAI(人工知能)が登場

肉眼での観察には限界があることが分かりました。そこで、公平で正確な判断が可能な機械によるサポートで、作業効率や診断精度を上げる試みが始まります。AI(人工知能)の登場です。

そもそもAIとは”Artifical Intelligence”の略称で、この訳語が「人工知能」ということになります。明確な定義はありませんが、人間の知的営みをコンピューターに行わせる技術やプログラムのことを意味しています。
AIの中でも「汎用AI」と「特化型AI」がありますが、前者はいわゆる「人造人間」のような、人のように「思考するロボット」のことです。
「囲碁でAIが人間に完全勝利した」などという話もまだ記憶に新しいと思いますが、こういったものや乗り物の自動運転装置などが「特化型」のAIということになります。
既にAIの画像識別能力は人間のそれを上回っていますが、この点に着目し、特化型のAIとして内視鏡検査への応用が考えられました。

つまり、「検査画像から病変の有無を判断する」というものです。

 

AIによる内視鏡検査とは?

従来のAIの学習方法は、大量のデータから人間が指定した着眼点から規則性や関連性を見つけ出し、判断や予測を行う「機械学習(マシーンラーニング)」が主流でした。

しかし内視鏡でのAIにはもう一つの学習方法「深層学習(ディープラーニング)」が採用されています。ディープラーニングは機械学習の一つと言えますが、それを更に発展させたもので、AIが自ら着眼点を学習し、人間の指示がなくても自動で判断していくものですが、そのためには多くの情報と学習が必要になってきます。

「AIで内視鏡検査をする」なんて聞くと、何だかまるでロボットが全自動で内視鏡の検査をするような画が頭に浮かんでしまうかも知れませんが、そういうことではありません。
現在研究されている「AI内視鏡」というのは飽くまでも検査は人間が行い、その検査によって得られた画像情報からAIが診断の補助をするというものになります。人間が得意とすることは人間が行い、AIにはAIが得意な仕事を任せるという考え方です。

AIが得意とする作業とはつまり、人間以上の画像診断能力を用いた人間には出せない超高速の判定作業のことですが、3000枚の画像を専門医が1時間で見るのに対して、なんとAIはわずか1分で見終わってしまうのです……。

AIによる胃内視鏡の様子

 

「内視鏡AI」に関する事業というのは、「AI開発重点領域」として国に選定されています。厚生労働省では定期的に医療分野のAI活用に関する会合が開かれており、その中ではAIを用いた医療に関する方向性が以下のように示されています。

(1)AIによる診断や治療方針の「最終的な意思決定は医師が行う」
(2)AIを活用した結果の「最終的な責任は医師が負う」
(3)より良い診療支援の確立のために「AI開発にも医師の関与が必要」

何だかアイザック・アシモフの「ロボット工学三原則」を思い出しますが、要するに医師が中心で、そのサポート役にAIが存在するという主旨です。
こうした方向性の下、2020年頃には頻度の高い疾患についてAIを活用した診断や治療の支援を実用化し、その後は比較的珍しい疾患についてもAI実用化が想定されています。
段階が進むと複数の診療科にまたがる診断や治療が、そして最終的には全診療科目での診断や治療に繋がるものと考えられています。

内視鏡検査にこのAIによる補助が加わると、検査中の医師にその場でポリープ等の病変を知らせて、観察や治療を行うということが容易になります。

 

群雄割拠のAI内視鏡最前線

2012年に開催されたコンピューターの画像認識率を競う大会で圧巻の結果を残したことにより、AIのディープラーニングは革新的な技術として脚光を浴びました。これにより様々な分野での研究が進められ、技術水準も飛躍的に向上し続けています。
それから数年。当時はなかった内視鏡AIの研究も2018年現在では癌の研究施設や病院、内視鏡関連会社など、国内外を問わず各団体がせめぎ合い、鎬を削っている状況です。有力とされるのは国内では4団体ほどでしょうか。

共通して言えるのはどの団体もまだ研究の途上にあり、現場での導入実現はできていない(試験運転は実施されている)というところですが、それと同時に「数年以内の実用化」を目標としているところも共通しています。
前述したように内視鏡は機器も検査技術も日本が世界を圧倒的にリードしている分野ですから、特に他国に負けるわけにはいきません。AI内視鏡研究を成功させることで、この分野においてのGoogleやamazonのような「世界的な存在」になり得る可能性があるのです。

どのAI内視鏡の開発団体であっても研究が途上であることや、技術が日々進歩することもあって、進捗に関する情報はあまり多く集まりません。他と比較して具体的にどの程度かは現時点では計測不可と言えます。
しかしながら、専門医の平均を上回る値で病変を発見することが出来るようになったAIも現れています。

 

新時代の旗手「株式会社AIメディカルサービス」

実は、我々ららぽーと横浜クリニックもAI内視鏡界の新時代を担う注目株、「AIメディカルサービス社」の研究に協力しています。
この略称「AIM社」では「CNN(畳み込みニューラルネットワーク)」というディープラーニングに適した「内視鏡画像の人工知能診断支援ソフト」が導入され、日夜研究と開発が続けられています。

2017年には「胃癌の人工知能による拾い上げ」に関する論文が発表されました(当院の院長大西達也も共著に名を連ねています)が、胃癌の発見に関するこの論文は、世界初であることが正式に認められ、海外の医療雑誌に掲載されました。そのほか、医療以外も含めた各報道媒体にも我々の研究が好意的に紹介され、非常に順調な滑り出しを見せています。

胃癌の人工知能による拾い上げに関する論文

※元々、AIM社の代表取締役会長(CEO)である多田智弘氏は、当院の院長の学友、盟友の仲であり、多田氏が院長を務める「ただともひろ胃腸科肛門科」もららぽーと横浜クリニックとの提携関係にあります。そうした経緯から、当院のAIM社への研究協力は必然の流れであり、研究画像の収集のために多田氏が多忙の中で当院を訪れるということもしばしばありました。

ところで、ディープラーニングによるAIの開発には「教師データ」というAIに覚えさせるデータの質と量が重要になります。
医療機器の開発会社が主導でAI内視鏡開発を行う団体などの場合には実際の検査画像などの臨床データがそれほど多く集まらないということもあるようです。
また、開発されたAIが最終的に内視鏡の単なる「付属物」になってしまう懸念もあります。

その点を考えると、AIM社では当院を含めた全国の有力な医療機関(東大病院やがん研有明病院など)と連携し、数多くの優秀な内視鏡専門医によって集められた膨大な数の臨床画像が集積されていますし、内視鏡専門医が主導でプロジェクトを進めていることから、医療現場で具体的にどのようにしてAIを役立てるのかまで想定された研究が出来ていると言って良いでしょう。

AIメディカルサービス社、今のうちに覚えておくと良いかも知れません。

 

AI内視鏡が抱える課題とは

順風満帆、非常に未来の明るいAI内視鏡ですが、実は避けられない課題も残っています。

「AI」という先進技術を扱う都合上仕方のないことなのか、AI関係の医療機器には実際に臨床の現場で使用するにあたっての「薬事承認審査」における明確な基準が存在しないのです(いわゆる「技術に法整備が追い付いていない」ような状態)。かつてはあの「ドローン」などもこのような状況でした。

当然ながら、どんなに優秀なAIであっても薬事承認申請をして認可されなければ医療の世界で使用することが叶いません。
まずはAIの精度を高め、いつでも使用可能な状態にし、その上で薬事承認審査をクリアする必要があります。

また、日本中あるいは世界中のどこでも同じようにAI内視鏡の恩恵を受けられるようにするために、製品化に当たっての導入コストや使いやすさ(分かりやすさ)に問題が出ないように注意する必要も出てきます。

AI内視鏡事業は潜在的な可能性を大いに秘めているコンテンツではあるのですが、こうした課題をクリアしない限りは日本の医療技術が世界を席巻することは夢のまた夢に終わってしまうのです……。

 

AI内視鏡検査の未来

AI技術を利用した内視鏡検査の研究は(その他のAI医療も含め)ここ数年で一気に過熱し、全世界で同時多発的に勃興した将来性のある事業です。現状ではどこの誰がパイを奪うのか、そして祝杯を挙げるのか、まだまだ予想がつかない段階にあります。
しかし、最先端技術で世界の医療を先導し、目指せ「日本発企業の市場独占!」……というのは、我々の掲げる目標のほんの一部分に過ぎません。

AI内視鏡の本質とは「AIの持つ人間にはない力を通じて、検査の能率を上げ医師と患者さんの負担を減らし、診断精度を高めることで全世界の医療に貢献する」というものです。
今回紹介したAIによる内視鏡検査を皆さんが受けられる日は、間違いなくそう遠くない将来に訪れるものと我々は確信しています。

ららぽーと横浜クリニックでは、胃と大腸の内視鏡検査を日々行っています。

既に述べたように当院はAI内視鏡研究施設の端くれでもありますから、当院で内視鏡の検査を受けるということは、結果として「AI内視鏡研究に協力する」ということになります。「明日の世界を救う」ことに繋がるのです。
そう考えると、内視鏡検査を受けることも何だか「壮大で夢のある話」に思えてきませんか? 

皆さんのご協力、心よりお待ちしています。

大腸カメラ


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